現在の図書館は、キャンパス別に本館、日野館、荒川館と、3つに分かれています。これらは、本館は旧東京都立大学、日野館は東京都立科学技術大学、荒川館は東京都立保健科学大学と、それぞれの前身大学の施設・蔵書を引き継いでいます。
なお、南大沢キャンパスの各学部は別途図書室を持っていますが、そこには触れない事します。
本館
旧東京都立大学の図書館は、1949年の開学と同時に発足しました。当時は目黒と鮫洲の2キャンパスだったため、目黒の旧都立高等学校図書館を本館、鮫洲の旧都立工業専門学校図書室を分室としていました。このうち分室は、工学部の図書室という性格があったために図書館と工学部が共同で管理をしていましたが、その事務分担などが問題となり、73年に分室制度は廃止、工学部の図書室として位置づけられました。
蔵書は都立高校、都立工業専門学校、都立女子専門学校の3校のものを引き継ぎ、和洋合わせて6万冊弱からスタートしたようですが、人文学部、理学部、工学部の3学部という当時の大学規模を大学設置基準と照らし合わせると10万冊が必要とされていたため、冊数を増やす努力が続けられたそうです。ところがこの頃は、学制改革による新制大学の設立が全国的に多く、例えば『法学協会雑誌』などの研究活動に不可欠な雑誌類は他大学との争奪戦となり、古書店で値上がりするほどでした。
施設は旧制高校の施設をそのまま使用していたためスペースが足りず、数度の増築を経ています。特に1971年のものは全面的な増改築で、閲覧室が746㎡、書庫が652㎡で15万冊が収蔵可能となりました。なお『東京都立大学三十年史』によると、この時点で蔵書数はおよそ33万冊となっています。この数字は各学部の図書室の蔵書も含めた大学全体の蔵書数と考えられるので、図書館の蔵書が増築しても溢れていた、ということではなさそうです。とはいえ、図書館である以上蔵書は増えるものなので、その後も書庫の増築を行い、南大沢への移転前には884㎡、収蔵可能冊数は23万冊となっていました。
その後の1991年、旧東京都立大学が南大沢へ移転した際、図書館も現在の建物となりました。閲覧室は2,053㎡、書庫は3,314㎡、収蔵可能冊数60万冊と、事務室などを含めた広さで比較すると約4倍の広さとなり、大幅に拡充されています。また、移転を契機に都民への図書館利用の開放が行われたこと、また1995年には書庫が閉架式から全面開架式とされたことも注目されます。
この図書館は建築意匠としても高く評価され、現在でもドラマやCMでも使用されることがありますが、一方で2000年代には雨漏りが発生するなど、図書館として致命的な問題も見られるようになり、2010年前半ごろに大規模な補修工事を行っています。
この旧東京都立大学図書館は、2005年の首都大学東京開学時には図書館本館と位置付けられ、蔵書も引き継がれています。2005年以前に購入された図書に、「東京都立大学図書館」という蔵書印や情報シールが貼ってあるのは、その名残です。とはいえ建物は何度か手が加えられ、2020年現在ではラーニングコモンズとして、スタディ・アシスタントの常駐するコミュニケーションスペースや、プレゼンテーションルーム、また所蔵する貴重資料を展示できる小規模なスペースも設置されています。
日野館
日野キャンパスが出来たのは1972年、東京都立工科短期大学の時代でした。その当時の図書館は独立した建物ではなく、本棟の3階の南端にあった「図書室」で、広さは事務室合わせて341㎡と小規模で、短大設置基準の1/3にも満たないスペースでした。また閉館時間も18:30と、早めだったようです。この状況は1986年に工科短期大学が4年制大学の東京都立科学技術大学に昇格してもしばらくは変わらず、1994年にようやく新図書館が開館します。
新図書館は日野キャンパスに新築された科学技術交流施設(現2号館)の地下と1階の一部に設置されました。広さは2,188㎡、25万冊を所蔵可能としており、およそ6倍の広さとなりました。1階に自習室と資料閲覧コーナーがあり、地下には書庫、閲覧席などが配されています。また、新図書館の設置を契機として都民への一般開放の開始、閉館時間も20:30に延長されるなど、利便性は大きく高まったと言えるでしょう。当時の蔵書数は1998年には10万冊弱を数えており、そのうち工学系の書籍が約3万冊と、全体の1/3を占めるあたり、工科系単科大学らしさが垣間見えます。
首都大学東京開学後も、図書館は設備・蔵書ともそのまま引き継がれています。そのため、日野キャンパス所蔵の図書には、古いものは科学技術大学の蔵書印や、その前身の短大の蔵書印が押されているものがあります。この蔵書印からも、大学の歴史を見て取ることができます。
ここで、図書館には含まれませんが、システムデザインギャラリーについて触れておきます。2016年に日野キャンパス2号館1階に設置されたギャラリースペースのことで、ここではシステムデザイン学部に関連する研究内容や学習成果の発表・展示が行われます。いつ、どのような展示を行うのかはシステムデザイン学部のwebページなどでお知らせがあるので、足を運んでみてはいかがでしょうか。
荒川館
荒川キャンパスの図書館は図書館棟1階に所在します。所蔵資料は健康福祉学部の前身にあたる、東京都立保健科学大学、また東京都立医療技術短期大学から引き継がれており、医療系に特化した図書館となっています。
蔵書でいえば、例えば癌、心筋梗塞、糖尿病など、様々な病気の闘病記が所蔵されています。病気以外にも、交通事故、介護、盲導犬に至るまで、幅広い分野が取り揃えられており、学生が将来患者と向き合う際にその心情などまで理解できるよう活用されています。
また医療系特化は蔵書だけではありません。2015年10月、館内のグループワークルームにシミュレーターを設置しています。聴診器や人体解剖模型、口腔ケアモデルなどがあり、「学科の垣根を越え、多職種同士でコミュニケーションを図りながら自らの専門性を高めていく学びの空間」として位置づけられています。
さらに、一般利用者にも特徴があります。本館や日野館における一般利用は都内在住者に限られていますが、ここまで見てきたような医療系特化という特性上、荒川館に限っては医療従事者の利用も認められています。
最後に、本シリーズとしては、都立の各大学に関する書籍が、本館や日野館に比べてかなり充実していることに触れなければいけません。健康福祉学部の前身の大学史の他に、旧都立大や科技大、都立短大の大学史や事業概要も所蔵とされています。あくまで一部で、網羅しているというほどではありませんが、明らかに保健科学大学以前の時代に、医療技術短期大学などの関連する大学の歴史だけでなく、”東京都の高等教育”という広い視野に立って蔵書を集めた段階があったと考えられます。誰がどのように主導したのかはわかりませんが、卓見と言えます。