2020年3月23日、東京都は新型コロナウィルス(COVID-19)対策として、大学に対しゴールデンウィーク終了までの休講措置等を”要請”、その結果、大学は3月25日に、5月11日からの授業開始を発表しました。この経緯を記録します。
当初の大学の姿勢
2020年3月19日段階での新型コロナウィルス感染拡大に対しての、大学の主な対策は以下の通りです。
- 図書館の休館(3月9日~31日)
- 卒業式の中止
- 卒業式後の学位授与式は規模縮小で実施
- 入学式、英語クラス編成テストの中止
- 各種ガイダンスは映像配信や広い教室などを使って実施
- 授業は延期しない(4月6日より通常通り実施)
正確に言えば、授業についての正式発表はなかったようですが、延期をするとの発表もありませんでした。また、3月25日に発表された上野淳学長(当時)の談話には、「本学の学生が円滑に安心して4月から学ぶことができるよう、教職員一体となって検討」してきたと記されていることから、予定通り実施の方向だったと考えられます。
感染症対策の前例
大学が休講・キャンパス立ち入り制限を決めることについては、前例があります。2007年5月29日6限から6月10日にかけて、麻疹の流行による休校・出校停止措置が行われた時には、
- 休校中は自宅学習
- 南大沢キャンパスへの立ち入り禁止(窓口も停止)
- 課外活動の禁止
- 学年暦の変更なし(補講で対応など)
という対応をとっています。これは、2007年5月29日に学生の麻疹への罹患が分かったことに基づいて緊急に取られた措置で、東京都による個別具体的な関与は少なくとも表向きには見て取れません。それにもかかわらず、特に2のキャンパスへの立ち入り禁止=封鎖などは、今回の新型コロナウィルス対策より強い対応となっています。
このように、大学が感染症を理由にキャンパスを封鎖することは前例があります。よって、大学は新型コロナウィルス対策においては、その是非は別として、休講措置やキャンパス施設の利用禁止などはあえて行わない予定だった、といえます。
東京都の動き
上記の大学の対応がひっくり返ったのが、3月23日の事でした。この日10時50分から、「第13回東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議」が東京都庁第一本庁舎7階 特別会議室(庁議室)で開かれました。このなかで、大学を所管する総務局長は、「ゴールデンウイーク終了までのすべての授業の休講、不要不急のキャンパス内への立ち入り禁止、サークル活動の自粛を行うことといたします。また留学生や地方からの入学生の東京への転入に関しまして自粛を要請することとし、これら四つの項目につきまして、実施のための学内手続きに入った」と述べました(リンク先動画内、9:30ごろ~)。
言葉を厳密に見ると、授業の休講、キャンパス立ち入り禁止、サークル自粛は「行う」とし、入学生らの東京転入は「要請する」とあります。そしてこれらの実施の「学内手続きに入った」とも述べています。大学の公式webページなどでは、「東京都の要請」という言葉が見られますが、総務局長の言葉を聞く限り、要請事項は新入生らの東京転入に限られ、休講などについては東京都の”指示”であったと捉えられます。
なお、この”指示”の根拠は、3月21日に東京都が行った専門家との意見交換会とみられます。この中で「大学については、新学期に地方から東京に人が集まることはリスクがある。4月の開校を遅らせることを統一してやっていただくとよい」と述べられており、休講、ついで学生の上京について指摘があります。
これを受けて3月25日、大学は、
- 5月11日からの授業開始
- キャンパス施設の利用原則禁止(指導教員等が認める場合などを除く)
- 学生団体の活動自粛
- 地方出身者の上京延期のお願い(可能な限り:3月中の転居でもよい)
からなる対応を発表しました。なお、授業の終了時期については明示されていません。
大学の関与の有無
では、東京都による休講などの”指示”について、大学はどの程度関与していたのでしょうか。
都のコロナ対策会議において前述の発言があったことがニュースに流れた直後、教員とみられる複数のツイッターアカウントにおいて、「知らない」「聞いてない」「ニュースで知るとは」などの書き込みがなされており、おそらく事前に大学との調整はされていなかったものと考えられます。なお、これらアカウントには、大学は授業を4月6日より行う予定であった旨の書き込みも見られます。
大学との調整がなかったことについては、"指示"から学内での発表までに時間を要したことからも裏付けられます。大学公式webページにおいて、延期を検討中との発表は翌3月24日付であり、また延期の発表は2日後の25日となりました。仮に水面下での事前調整があったとすれば、教職員や学生の混乱を避けるため、"指示"の直後に延期や検討中との発表をすることもできたはずで、この点、やはり事前の調整はなかったものと捉えた方がよいでしょう。
このように今回の新型コロナウィルス対策の休講措置については、大学側は4月からの開講を予定していたところ、東京都によるトップダウンにより決められたものだった、と結論付けることができます。
さて、この一連の経緯から連想されるのは、やはり名称変更の経緯です。2018年4月以降、7月12日の都政改革本部会議での小池都知事の発言に至るまで、大学名については徹底的に法人・大学を排除した東京都内部で検討が進められていました。この東京都で検討してから大学へという"トップダウン"方式は、今回のコロナ対策での休講判断の流れと類似しており、名称変更の流れが前例となって今回の休講判断のプロセスが出来上がった可能性が示唆されます。さらに言えば、首都大学東京成立時に批判を浴びたのは、石原慎太郎都知事(当時)の"トップダウン"でした。以後も「東京都立大学」は、東京都の”指示”という伝統のもと、運営されていくのでしょうか。