1969年、旧東京都立大学が自衛官による受験を拒否したことに対しては、学外でも広く取り上げられました。ここでは、東京都と国との反応を見てみましょう。経緯ほかをまとめた前編はこちら
都議会の反応
東京都議会では、3月2日の受験拒否の決定直後からこの件が取り上げられています。まず3月5日の都議会第1回定例会においては当時の美濃部亮吉都知事に対し、自民党所属の富田直之都議から「この拒否が憲法違反でないとお考えであるか」、民社党所属の林永二都議からは自衛官が災害派遣で出動することを挙げ、今後同様の事象が起こった場合に「どのような決意で対処しようとするのか」と質問しています。また6日には小杉隆都議(自民党所属)が、知事による憲法違反に当たるかは判断するのに適当な機関があるとの発言を受けて、「行政訴訟に持ち込み、法廷論争をも辞さない」と述べています。これらに対し、革新系知事として知られた美濃部都知事は「都立大学のとった措置を信頼するという態度をとりたい」と述べる一方、憲法に明らかに違反するならば、改めて考えたいとも述べています。
さらに14日の都議会予算特別委員会には、都議会の要請で、都教育委員長、團勝磨総長、岡本哲治入試管理委員長が参考人として出席、都教育委員長が「直ちに憲法違反とはならない」と述べる一方、團総長はこの場で「裁判所から違憲の判断が出れば、引責辞職する」と述べる事態となりました。
国会の反応
またこの問題は国会でも取り上げられました。3月8日の参議院予算委員会での坂田道太文部大臣(当時)による言及を皮切りに、14日衆議院文教委員会では、藤波孝生議員から「明らかに憲法違反」という指摘がなされました。また15日の参議院予算委員会でも、アルバイト学生が内申書を見ていたことを含め、この問題が取り上げられています。なお、これはいくらか余談になりますが、この15日の予算委員会の出席者の中に、当時一期目を務めていた石原慎太郎参議院議員の姿がありました。この日、彼は直接この問題には触れませんでしたが、一方で学生運動について、また自衛隊についてを取り上げており、興味関心は明らかでした。後年、彼が都知事となり、当時の東京都立大学を閉学へと導き、また特に受験拒否の急先鋒だった人文学部へと攻撃を行ったのは、この時の記憶があったからではないか、というのは想像が飛躍しすぎているでしょうか。
行政の反応
一方、行政は直接的に大学とやり取りをすることになりました。3月4日には早くも坂田道太文部大臣と有田喜一防衛庁長官(いずれも当時)が協議、憲法に触れる恐れがあるとして、調査することで一致しています。すると早速、3月6日には文部省から問い合わせがありました。團総長はそれに対し、入試が行えない可能性という理由に加え、「恒久的な対応ではなく学内情勢に伴う一時的な対応である」旨を回答しました。これを受けて19日、文部省は、「自衛官であることを理由に入学の機会を奪うことは教育の機会均等の原則を定めた憲法と教育基本法の趣旨から許されない」とし、「入試実施について配慮を願う」と通達しました。
また防衛庁は、法務省人権擁護局長へ人権侵害の疑いありとして通報、それを受けて法務局が調査を行い、4月18 日には①受験拒否決定を取り消すこと、②受験(再試験)を認めること、③今後憲法・教育基本法に違反する差別的な取扱いをしないこと、からなる勧告を行うに至りました。この勧告では、「受験生たる自衛官三名の犠牲において、たやすく懸念される事態を回避しようとするがごときことは、許されない」とすら述べられています。しかしこれを受けても大学は、「教育責任の遂行上最善と考えられる措置をとった」との見解を発表、各学部の教授会もこの見解を支持し、結局3名の自衛官の受験を認めることはありませんでした。
現大学とは無関係
なお、この旧東京都立大学の決定をもって、首都大学東京も自衛官受験を認めていないという説がありますが、前提として両者は別大学であるので、必ずしもすべての決定を引き継いでいると考える必要はありません。また仮に引き継いでいたとしても、当時から当該決定はあくまで「恒久的な対応ではなく学内情勢に伴う一時的な対応である」としていました。つまり、この受験拒否決定の効力は、1969年3月3日に入試が終了した時点で無くなったと考えるのが妥当です。よって、具体的に自衛官が出願した場合にどのような対応になるかは別として、この決定がそのまま今も生きている、と捉える必要はありません。
参考文献
- 伊藤敬一(1969)「都立大学における自衛官受験拒否のたたかい」『日本の科学者』vol.3 no.6.
- 岡本哲治(1969a)「自衛官入学資格問題」『自由』vol.11 no.7.
- 岡本哲治(1969b)「四・一八法務局勧告」『自由』vol.11 no.8.
- 関嘉彦(1998)『私と民主社会主義-天命のままに八十余年-』近代文芸社.
- 東京都議会 会議録検索
- 国会会議録検索システム(国立国会図書館ホームページ)