東京都大学改革大綱

200111月に策定された「東京都大学改革大綱」(以下「大綱」)は、学内の検討結果である「東京都立大学改革計画2000」、「新・東京都立大学改革計画2000」を基本的に引き継いだ「東京都大学改革基本方針」を、さらに具体化したものでした。では、その「大綱」の中身を見てみましょう。

「大綱」の概要

「大綱」の大枠として、①都立高校や大都市における都民活動との連携、②都立の大学出身者として存在感のある人材の育成、③教育研究の重点化による東京への貢献、④法人化による運営の刷新がうたわれています。この中で、①~③は今までの都立の各大学の理念などを引き継いだものと評価ができる一方、④の法人化は大きな変更といえるでしょう。

では、どのような大学になるのか、という点では、①都立4大学を一つの総合大学として再編・統合し、新たな総合大学を2005年をめどに設立する、②人文学部、法学部、経済学部、理学部、工学部、保健科学部という構成、さらに各学部に大学院の研究科や、法科大学院などの専門職大学院を設置、③南大沢・日野・荒川を拠点キャンパスとし、都庁舎や晴海キャンパスを専門職大学院に活用、④都立短大の教育需要低下、夜間学部(B)の勤労学生減少から、これらを廃止する事、などが挙げられています。

具体的な改革の内容

さらに具体的な取り組みとしては、以下の19点が挙げられています。

入学者選抜方法の改善
  • 募集単位の見直し
  • 選抜方法の多様化、都内高校生比率向上
    1. ゼミナール入試
    2. チャレンジ入試
    3. 指定校推薦制度
  • アドミッションオフィスの設置
高等学校等との連携強化
  • 高校生向け特別授業の実施
  • 指定校推薦制度の導入
  • オープンキャンパスの充実
  • 大学・高校教員の相互理解
  • 都内公立学校教員のキャリアアップ支援
  • 大学教員による「総合的な学習の時間」実施の支援
  • 都立高等専門学校からの編入学
教養教育を重視した学部教育の構築
  • 基礎教育ゼミナール実施
  • 外国語教育の充実
  • 情報教育の充実
  • 全寮制のあり方を検討
多様な履修システムの導入
  • 募集単位を見直し、2年進級時に専攻分野を選択
  • コース制の導入、学部横断コースの設置も
  • 副専攻の設置
  • 修士・博士一貫教育制度の導入
  • 他大学との単位互換制度等の強化
教育方法等の改善
  • 担当指導教員による学生相談・履修指導
  • 教育方法改善への組織的な取り組み
  • 厳格な成績評価の実施
遠隔教育の活用
  • 多様な教育機会の提供(他キャンパス、自宅、島しょ部などへの配信)
  • 海外の大学とのネットワーク構築
インターンシップの充実
  • 正規の授業科目としての位置づけ
  • 産学公連携センターの活用
  • 広域的な連携機能の活用
  • 都庁でのインターンシップ
学生の進路選択支援体制の強化
  • 進路相談・指導担当部門の設置
  • 進路選択支援プログラムの実施
総合教育センターの設置
  • アドミッションオフィスの設置
  • 基礎教育・教養教育の実施体制の充実
  • 教育方法改善に向けた取り組みの実施
  • 学生の履修指導及び進路指導
大学院における教育研究の充実
  • 教育研究機能の充実
    1. 先端科学技術研究科の開設
    2. 都市研究科の拡充
    3. 保健・医療・福祉分野の大学院開設
  • 高度専門職業人の養成
  • 学部3年終了後の修士・博士課程への進学(早期卒業制度)
プロフェッショナル・スクールの開設
  • ビジネス・スクール
  • 法科大学院
  • エンジニアリング・スクール
  • 公共政策大学院
  • 各大学院間の連携強化
保健・医療・福祉を支える人材育成
  • 大学院 保健科学研究科の開設
  • 看護職員等のリフレッシュ教育
  • 看護専門学校からの編入学等の拡充
  • 社会的ニーズの高い資格教育の拡充
  • 関連分野間の連携
  • 医学系試験研究機関等との連携
産学公連携センターの設置
  • 産業界からの要望を反映した研究の促進
  • 大学の研究成果を活用するベンチャー企業の支援
  • 大学の研究と産業界の要望を結ぶコーディネーターを起用
  • 研究成果の23区への還元
  • 研究成果データベースの構築
都の試験研究機関との連携
  • 研究員の客員教員化
  • 共同研究の推進
都市に関する教育研究の充実
  • 都市に関する学部横断プログラムの導入
  • 都市科学研究科の拡充
  • 都市研究所の拡充
  • 公共政策大学院の開設
都市研究所の機能強化
  • 都政のシンクタンク的機能の強化
  • 学外からの研究者・コーディネーターの器用
  • 都市研究機能の充実
  • 都市に関する情報センター機能の整備
都民に開かれた大学教育システムの構築
  • 公開講座の再構築
  • 社会人聴講生制度の導入
  • 科目等履修生制度の拡大
  • パートタイム学生制度の導入(社会人対象に修業年限を設けない)
海外の大学等との交流
  • 交流協定の締結拡大による大学間ネットワークの構築
  • 海外の都市研究機関とのネットワーク構築
  • 海外に向けた広報活動の充実
都立の大学にふさわしい法人化の実現
  • 自主・自律的な運営の実現
    1. 自主的な運営権の確率
    2. 目標・評価のシステム導入
    3. 積極的な情報公開
  • 責任ある運営体制の確立
    1. 経営責任と教育研究責任の区分の明確化
    2. 教育研究部門の運営システムの改善
    3. 部局への分権化と競争性の導入
  • 人事・会計制度の弾力化
    1. 人事制度の弾力化(任期制、公募制、非公務員化)
    2. 会計制度の弾力化

なお新しい大学の名称については、この段階で、「首都東京が設置する公立の総合大学としてふさわしいものを検討」「新たな大学の名称を公募する」などと述べられています。

ちなみに、「大綱」は図書館本館荒川館に所蔵されているので、興味のある方はお手に取ってみてください。

「大綱」と「改革計画」

この「大綱」と、前回みた「新・東京都立大学改革計画2000」(以下「改革計画」)とは、どこが変わったのでしょうか。まず、「改革計画」はあくまでも旧東京都立大学単体の計画であったため、大学の統合・新大学設立の話は「大綱」段階で新たに明記された話となります。また法人化は、学外意見の反映といったあたりは関連している可能性もありますが、基本的にはこの段階で明記されたといってよいでしょう。一方で、遠隔教育や海外の大学などとの連携、都の研究機関との連携など、初めての話はほかにもありますが、これらは方向性を具体化したものとの評価もでき、「改革計画」を引き継ぎ、具体化したものといえます。

「大綱」が重視するもの

さて、これら一連の改革の重要な部分として挙げられるのは、社会貢献としての産業、大学、行政の連携強化といえるでしょう。これは平たく言えば「産業活性化のための大学を作り、それを東京へ還元する」ということで、理系重視、文系軽視、という部分も透けて見えます。これは、「大綱」のなかでは並列表記の中の一つにすぎませんが、例えば20012月ごろの石原都知事による「シリコンバレーにスタンフォード大学があるように、東京にもそうした大学を作る」などの発言から、要点の一つとみる必要があるでしょう。それのある種の代償として、これも「大綱」には直接的には表れていませんが、文学・語学系の教員定数の削減が行われるという話があったようです。

大学における「大綱」への評価

では、この「大綱」について、大学側はどのように評価していたのでしょうか。「大綱」には、B類の廃止や文学・語学系の教員定数削減などへの批判も確かにありました。しかしながら、全体としては「東京都と大学とのの間で協議を進めながら」準備を進めていたと、当時旧東京都立大学の人文学部長を務めていた茂木俊彦氏(のち総長)は述べています。すなわち、この後巻き起こる猛烈な批判はこの時点ではまだなく、その原因は「大綱」に語られている内容以外の部分にあった、と評価されます。では、この後に何が起こったのでしょうか。稿を改めて見ていきたいと思います。

 

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