首都大学東京は、2005年に成立した新大学です。その新大学における学部編成はどのようになっていたのでしょうか。まずは2018年の学部再編前までを見てみましょう。再編後についてはこちら。
首都大学東京開学時の学部・学科構成
2005年の開学時、首都大学東京は以下のような構成となっていました。
都市教養学部 | 都市教養学科 | 人文・社会系 | 社会学コース |
心理学・教育学コース | |||
国際文化コース | |||
法学系 | 法律学コース | ||
政治学コース | |||
経営学系 | 経営学コース | ||
理工学系 | 数理科学コース | ||
物理学コース | |||
化学コース | |||
生命科学コース | |||
電気電子工学コース | |||
機械工学コース | |||
都市政策コース | |||
都市環境学部 | 都市環境学科 | 材料科学コース | |
都市基盤環境コース | |||
建築都市コース | |||
地理環境コース | |||
システムデザイン学部 | システムデザイン学科 | ヒューマンメカトロニクスシステムコース | |
経営システムデザインコース | |||
情報通信システム工学コース | |||
航空宇宙システム工学コース | |||
健康福祉学部 | 看護学科 | ||
作業療法学科 | |||
理学療法学科 | |||
放射線学科 |
では、以下で学部・学科のルーツを具体的に見てみましょう。なお、ルーツについてはさしあたり、「各学部・学系の教員が、おおよそ旧4大学のどの学部学科に所属していたのか」を大まかな基準とします。この点については、首都大開学にあたって就任を拒否した教員もおり、特に旧4大学側の視点から見ると「異質の組織である」との議論もあります。実際のところ、関係性をどうとらえるかは、視点・立場・考えによりさまざまなので、互いに異見もあることを前提として、読んでもらえればと思います。
※ 2005年の首都大開学から数年間は旧4大学も併存しており、首都大に所属した教員のほとんどは、旧4大学のいずれかの大学にも閉学まで所属していました。そのため、厳密には「所属している」が正確ですが、文意が不明瞭となるので、「所属していた」と表現しました。
なお、旧東京都立短期大学から各学部へ所属した教員もいましたが、残念ながら具体的に追いきれなかったこと、また人数的には少数とみられることから、関係には含んでいません。今のところ、人文社会系・法学系・経営学系への就任があったようです。
都市教養学部
まずは「都市教養学部」の説明が必要でしょうか。おおざっぱに言えば、旧東京都立大学の5学部のうち、工学部以外の4学部(人文、法、経済、理)が合わさった形です。よく問題にされる「都市教養」という単語ですが、おそらく「都市」に引っかかる、という場合が多いものと思います。とはいえ、特段「都市」のみを扱って研究や講義をしていたいたわけではありません。また、以前も記事にした通り、旧都立大は「都市問題の解決」が開学以来の一大テーマだったことを考えると、それを引き継いでいると考えることもできるでしょう。
さて、ではこの都市教養学部の中の、各系・コースのルーツはどこからきているかを見てみましょう。
人文・社会系
基本的には旧東京都立大学の人文学部がルーツといってよいでしょう。
もう少し言えば、文学科に加え、人文科学科の一部(旧哲学科、旧史学科)、さらに新設の表象言語論分野からなるのが国際文化コースです。社会学コース、心理学・教育学コースはそれぞれ人文科学科の流れを汲みます。なお、社会人類学分野については社会学に含まれていたものが、この段階で分野として独立した形となったようです。
法学系
法律学コース、政治学コースともに旧東京都立大学法学部法律学科、政治学科がルーツとなります。一方で、首都大開学時には特に旧都立大法律学科からは11人の教員が就任を拒否しており、これをもって異質な組織とする意見もあります。
経営学系
旧東京都立大学経済学部では、経済学部は大まかに「経済学」「経済史」「経営学」に分けられますが、首都大成立時に大半の「経済学」グループの教員が就任を拒否しました。このため、予定していた経済学コースの設置ができないという状況となり、「経営学コース」としての出発となりました。
理工学系
旧東京都立大学の理学部のうちの4学科(数学科、物理学科、化学科、生物学科)と、工学部の一部(機械工学科、電気工学科)がルーツです。"理学系"ではなく、"理工学系"となったのは、この部分が影響したことでしょう。一方で旧理学部の地理学科は都市環境学部へ含められることになりました。
都市政策コース
こちらは旧東京都立大学大学院の都市科学研究科が関係しています。旧都立大時代には大学院研究科のみの編成だったものが、首都大成立に伴い学部生を受け入れることになったものです。なお、都市科学研究科や都市研究所については別稿を参照してください。
都市環境学部
都市環境学部は、基本的には旧東京都立大学の工学部をそのルーツとします。ただし前述の通り、旧工学部からは機械工学科、電気工学科の2学科が理工学系へ、一方で旧理学部地理学科が地理環境コースとして合わせられています。さらに、電子・情報工学科はシステムデザイン学部へ合わせられることになりました。
なお後述の通り、自然文化ツーリズムコースは2008年に新設されます。
システムデザイン学部
システムデザイン学部は、基本的には旧東京都立科学技術大学がルーツといってよいでしょう。その中で、旧工学部から電子・情報工学科が、情報通信システム工学コースとしてこちらに含められています。
なおインダストリアルアートコースは2006年に新設されました。
健康福祉学部
こちらはすべて旧東京都立保健科学大学がルーツといえます。学科構成の変更も、保健科学部から健康福祉学部へと学部名が変わったことを除けば、なかったようです。
学部再編までの動き-コースの新設・分離独立
ところで、上で見てきた学部学科構成は、2018年の学部再編まで固定されていたわけではありませんでした。
コースの新設
開学後も、コースの新設がいくつかありました。
まず2006年、システムデザイン学部においてインダストリアルアートコースが新設されました。
続いて2008年には、都市環境学部において自然文化ツーリズムコースが新設されています。
経営学系において経済学コースが設置されたのが2009年のことです。この段階でようやく教員の確保ができた、ということになるでしょうか。
コースの変更・分離独立
新設がひと段落すると、今度はコースの名称変更や分離独立が行われました。
2012年には、都市環境学部の材料科学コースが分子応用科学コースという名前となり、2013年には人文社会系のアジア・日本文化論コースが日本・中国文化論コースへ、また2015年にはシステムデザイン学部においてヒューマンメカトロニクスシステムコースが知能機械システムコースとなりました。
同じく2015年、人文社会系では教育学分野より日本語教育学分野が独立、また同年、言語科学分野も表象言語論分野から独立、いずれも心理学・教育学コースの中に含まれました。
このように、いくつかのコースの新設や変更などを経ながら、2018年の学部再編を迎えることになりました。この再編については別稿で触れていきます。