2018年、首都大学東京では学部が再編され、それまでの4学部体制から大きく変化しました。では、その中身を具体的に追ってみましょう。
学部学科再編の内容
まず、なぜ再編がなされたのかということですが、残念ながらよくわかりません。噂では、某系では学外の学会活動において「学部」でないことで立場が弱いという事情から、教員からの不満があった、という話もありますがどうでしょうか。
さて、この再編で目立つのが、都市教養学部の解体です。大雑に言えば、分離独立して、人文社会学部・法学部・経済経営学部・理学部となりました。一方で都市環境学部・システムデザイン学部・健康福祉学部はそのままに見えますが、学科単位で見ると、さらに変化がありました。
人文社会学部
都市教養学部人文・社会系が独立・学部化したのが人文社会学部です。人文学科(旧国際文化コース)と人間社会学科(旧社会学コース、心理学・教育学コース)とに分かれています。各学科のもとにはそれまでの「分野」に相当する単位として「教室」が設けられました。そのうち人文学科では、日本・中国文化論分野が日本文化論教室、中国文化論教室に、また欧米文化論も英語圏、ドイツ語圏、フランス語圏と、教室がそれぞれ分離独立しました。さらに表象言語論分野は2015年の段階で言語科学分野が独立していることもあってか、表象文化論教室という名前になりました。
法学部・経済経営学部
この二学部については、もとの「法学系」「経営学系」がそれぞれ学部となった以外は大きな変更は無いようです。
法学部は単一の法学科のもとに「法律学コース」「政治学コース」が、経済経営学部にはこちらも単一の経済経営学科のもとに「経営学コース」「経済学コース」が設置されています。
理学部
理学部では、旧理工学系から電気電子工学コース、機械工学コースがシステムデザイン学部へと移されました。この2コースはもともと旧東京都立大学工学部から理工系へと合わせられたもので、再び異動となったといえます。そのほか各コースが、「数理科学科」「物理学科」「化学科」「生命科学科」と、それぞれ学科となりました。一方で、旧都立大理学部に所属していた地理学科は、依然として都市環境学部に含まれています。
都市環境学部
都市環境学部での変化は、各コースが学科となったことが一点です。名称はそれぞれ、「環境応用化学科」(元:材料科学コース→分子応用化学コース)、「都市基盤環境学科」(元:都市基盤環境コース)、「建築学科」(元:建築都市コース)、「地理環境学科」(元:地理環境コース)、「観光科学科」(元:自然文化ツーリズムコース)となりました。
もう一つの大きな変化は、「都市政策科学科」が移籍してきたことです。この「都市政策化学科」は、元々は都市教養学部の「都市政策コース」でした。この都市政策コースは別稿でふれたように、都市研究所の流れを汲んでおり、この理念は文系・理系の枠組みを越えて都市の課題を解決していく、ということにありました。この点、文理とも含まれていた「都市教養学部」に所属していたのは必然だったと言えます。
ところが、この再編で都市教養学部が解体されると、どの学部に所属するべきか、という問題が発生します。独立したどの学部も、特定の学問に特化した学部であることを考えると、いずれにも所属させにくかったことは容易に想像がつきます。そこで「都市」という単語が含まれるからなのか、この「都市環境学部」に所属することになりました。この理由が正しいかはわかりませんが、いずれにせよ、文理の枠組みを越えるものとされた「都市政策学科」が、元工学部がルーツで理系よりの都市環境学部に含まれたことで、今後の研究活動にどのような影響を与えていくでしょうか。
システムデザイン学部
さて、実は大きく変わったのがこのシステムデザイン学部です。旧理工学系から電気電子、機械工学の2コースが編入され、さらに各コースとの分離・統合が行われました。以下、再編後の各学科と、どこのコースの流れをくむのかを見てみます。
大幅に再編されたのは、「機械システム工学科」「電子情報システム工学科」「情報科学科」の3学科で、これらは旧学部の3コースに加え、先述の理工系からの2コースを統合・再編して設定されました。以下、表にしてみます。
機械システム工学科 |
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電子情報システム工学科 |
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情報科学科 |
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このように、かなり大きな再編が行われたことがわかります。これはもともと、システムデザイン学部が旧「東京都立科学技術大学」にルーツがあり、さらにたどると旧「東京都立大学工学部別科」へとつながる一方、旧理工系2コースも旧「東京都立大学工学部」がルーツといえ、研究内容が比較的近い分野が多くあったことに起因すると考えられます。
一方、さほど大きな動きが無かったのは「航空宇宙システム工学科」と、「インダストリアルアート学科」です。
「航空宇宙システム工学科」は言うまでもなく「航空宇宙システム工学コース」が再編されたものです。そのルーツは同じく旧「東京都立科学技術大学」ですが、さらにその先を辿ると旧「東京都立航空工業短期大学」につながり、旧工学部別科が源流だった他の3学科とは若干ルーツが異なっています。もちろんこれは、ルーツの違いで再編の有無が決まったことを示しているのではなく、他のコースと研究内容の類似が少なかったために、組織が維持されたと捉えられます。
「インダストリアルアート学科」は、「インダストリアルアートコース」が元となっています。こちらは首都大学東京開学後にあたる2006年に新設されたコースなので、旧4大学をルーツとしておらず、こちらも研究内容の類似が少なかった、と捉えられます。
健康福祉学部
学部全体で目立った変更がなかったのがこの健康福祉学部です。こちらももともと旧東京都立保健科学大学の流れをくみ、他学部と類似する分野がほとんどなかったことが、その理由といえるでしょう。
このように、学部・学科構成は必ずしも一定のものではありませんでしたが、これは大学個別の特徴というわけではなく一般的なもので、全国の大学では毎年のように新学部が設置されています。時代の変遷により研究内容が新しくなるにつれ、その名前を含めて変わっていくのは、ある意味で当然と言えます。とはいえ裏を返せば、あくまで中身・実態の変化があって初めて、変更する正当性を得ることができる、ということもできます。
学部再編と名称変更の関連性
一部では学部再編をしたことで「大学名を東京都立大学に戻しやすくなった」とする言説も見られますが、その妥当性はどうでしょうか。
実際のところ、学部が「復活」・「元に戻った」わけでは決してありません。学部の名前だけで見ても、旧都立大学閉学時と同様なのは法学部、理学部だけで、旧都立大における人文学部、経済学部、工学部とは異なります。さらに学科単位で見てもまったく異なる、ということは並べてみるとよく理解できます。
また、学部再編はあくまで大学主導で行われたことなのに対し、大学名称の変更は東京都が主導・決定したこと、という点でも、主体が異なっており、単純に結びつけることは出来ません。
更に付け加えれば、タイミング上、一学年だけ「東京都立大学 都市教養学部」の卒業生が出ることを考えると、学部再編と大学名を結びつけるのは、どうやら無理があると言えそうです。