2社目の仕事について

―現在は総合商社(2社目)にお勤めとのことですが、なぜ転職されたのでしょうか

理由は2つあります。

1つ目は、新規事業構想策定の支援をしているうちに、自ら事業を手掛けてみたいと思うようになったからです。コンサルタントの仕事はハードで、時には夜遅くまで仕事をします。しかし、一生懸命自分が考えたことも、実行するのはお客様です。そこに物足りなさを感じることがありました。お客様からの依頼とはいえ、仕事に取り組む中でやはり思い入れは出てきますし、自然と自分で事業をつくって経営してみたいと思うようになりました。

2つ目は、海外現地で仕事をしたいと思ったからです。一般的に、外資系企業の海外駐在ポジションは限定的です。外資系企業の本社としては、日本でのビジネスを拡大するために日本人を雇っており、その日本人を他国に駐在させる合理性は限られているのです。1社目も例外ではなく、海外出張はありましたが、海外駐在はありませんでした。同社で、海外M&A案件のPMI支援を担当した際に、幸運にもオーストラリアに長期出張ベースで仕事をしましたが、そこで改めて思ったのは、もっと長期間駐在をして現地で事業をやってみたい、ということでした。

このような思いもあり、現在の総合商社に転職しました。

 

―現在お勤めの総合商社ではどのようなお仕事をされているのでしょうか

学生さんにとっては、総合商社のビジネスってやや分かりにくいと思うのですが、自分の言葉で説明してみたいと思います。

総合商社というと、商社という言葉が用いられていることもあり、トレーディング(貿易)のイメージがあると思うのですが、実は事業投資も積極的に行っています。正しく言うと、総合商社は事業の創造・開発を生業としていて、それに関連する仕事がたくさんあるのですが、あえて2つに分類するのであれば、トレーディングと事業投資に大別することができます。

私はその中でも事業投資に関する仕事を担当しており、化学、食料、流通などの非資源領域における投資案件の形成・推進を担当しています。具体的にどんな業務をしているのかですが、①投資前の戦略・方針策定、②投資実行、③投資後の経営の3ステップに分けて説明します。①は専門用語で言うと事業戦略及び投資戦略の策定とも言いますが、要するに、今後どのように既存事業の舵取りしようとしていて、なぜ投資が必要なのかを検討するステップです。②には、文字通り投資実行ですが、この中にはDue Diligence*3Valuation*4、価格及び契約交渉、社内投資許可取得ほかが含まれます。③では①で策定した戦略の実行、また実行性を高めるべく組織体制やガバナンスなどを整備することも含まれます。

*3 買収対象の事業や企業を、戦略性、収益性、リスクなどの観点から精査すること。

*4 買収対象の事業や企業の価値を評価すること。要は買収価格を決めること。

 

―難しいです・・・

そうですよね、例えば家を買うことを想像してみてください。①は今後のライフプランを見据えながら賃貸or分譲といった方針を固めるようなことです。②は、その家は自分の希望を満たすものなのか、構造上の欠陥はないか、外装・内装オプションを含めると結局いくらなのか、それは近隣他物件と比較したときに良い買い物と言えるか、家の売買契約に不利な条項が入っていないか、銀行をどう説得して融資を引っ張るかなどを踏まえて家を購入するようなことです。③は①で立てたライフプランを実現するようなことです。生活を送るためにもガス・電気・水道を引き、必要に応じて一部家具購入を検討することもあるでしょう。

やや無理やりではありますが、家を購入する例で当てはめてみました。イメージでも伝わりましたでしょうか・・。

なおプロセスそのものは家の購入と類似する点もありますが、実際のところ、事業投資というのは複雑で奥深い仕事です。事業、経営、ファイナンス、財務、経理、税務、法務、技術などの知見が高度に求められ、社内外の専門家の力も借りつつ、One teamで案件を推進することとなります。刺激的で何より楽しいですよ。

 

―総合商社の中でも今の会社を選択されたのはなぜでしょうか

①中途採用の人事戦略上の位置づけ(空きポジションがあったからスポットで採用するのではなく、ダイバーシティーの拡充の観点から中途採用をしているか否か)、②企業理念や企業文化との親和性、③経営戦略の方向性(自分が興味のある分野に注力しようとしているか)を勘案して今の会社を選択しました。

 

―仕事のやりがいと辛いことを教えてください。まずは前職ではいかがでしたか?

前職(戦略コンサル)については、仕事はかなりハードでしたが、毎日学びがあり、プロジェクトの節目のたびに自身の成長を感じられることがやりがいでした。もともと好奇心旺盛な性格なので、さまざまな業界の経営課題にチャレンジできる点が良かったと思います。

 

―ありがとうございます。続いて現職ではいかがですか?

まず、総合商社の魅力は何といっても仕事が面白いということです。

我々は世界市場を相手にビジネスを行っています。今後世界がどのように変わり、その結果、需給(ニーズ)や業界構造はどのように変わるのかというマクロな視点で事業機会を探り、必要な関係者を巻き込みながら事業を構築します。時には外国政府に働きかける必要があります。

また、私がこれまでアドバイザーの仕事を経験したからこそ思うことですが、一事業者として事業に深く関与できる点も魅力だと思います。海外の現場に足を運び、現場の経営陣や従業員と協議・交渉を進める中で、現場の生々しさや現実にも触れることになりますが、その中に新たな発見や学びがあり楽しいのです。

もう少し現組織の仕事に落としてお話しすると、投資実行許可を取得できた際もやりがいを感じます。(言わずもがな、投資実行後の経営が何よりも重要です。)というのも、投資許可取得には大変な労力を必要とするからです。会社の立場になって考えると、株主含むさまざまなステークホルダーより調達した大切なお金を使うこととなるので、あらゆる角度から審査をし、案件良質化に努めるのは当然です。社内の事業投資に係る専門部署から時には厳しい指摘を受けながらも、案件を前に進めていかなければなりません。

なお、現在、私は投資案件の形成・推進を担当していますが、いずれは出資後の会社経営にも携わりたいと思っています。これはあまり今まで経験したことのない業務であり、かなり苦労するとは思いますが、もともと事業をやりたいと思って総合商社に転職してきたので、ぜひ今後も楽しく前向きに仕事に取り組んでいきたいと思っています。

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